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財団法人JKA助成金による研究成果
(2023年度 光照射により細胞あるいは細胞シートを剥離可能な新規樹脂補助事業)
1.研究の概要
 シェラックは「高い生体安全性」と「生体親和性」、「優れた成形性(Tg〜80℃の熱可塑性)」を有する天然樹脂として、主に錠剤やチョコレート菓子などへの可食性コーティング材などに産業利用されている。しかし哺乳類細胞に対する接着・増殖性を全く持たないため、「高い生体安全性」を持ちながらも医用材料を志向した「細胞接着性を持ったバイオマテリアル」としての利用検討・製品開発は、これまで全くなされていなかった。しかし最近我々のグループにおいて、ごく僅かな化学修飾を施すことで、シェラックに対して哺乳類細胞に対する接着・増殖性を付与できることを発見した。そこで本研究では、この化学修飾する置換基を光照射により脱離可能な置換基とすることで、光照射により元の細胞接着性のないシェラックに戻すことができ、結果細胞接着性を失うシェラックの開発が可能か検討した。またこれを細胞培養材料として用いることで、この表面で培養された細胞、細胞シートを光により剥離可能となるか検証した。その結果、種々の光脱離性置換基について検討を行うことで、光照射により細胞接着性を失わせるシェラックの開発に成功した。これにより、このシェラックのフィルム上で培養した細胞の光による回収が可能となった。
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図1 精製シェラックの外観(左)と表面コートされたチョコレート菓子の例(右)

​2.研究内容と成果

(1)光照射により細胞接着性を失うシェラック樹脂の開発

 シェラックは樹脂酸とヒドロキシ脂肪酸の交互オリゴエステルからなるため、我々はこのポリマー鎖末端のカルボキシ基を化学修飾の導入位置として着目した。以前の我々の研究において、ここへ種々の置換基を導入することで、哺乳類細胞に対する接着・増殖性が付与可能とわかっている。そこで本研究では、ニトロベンジル系、クマリン系の光脱離性置換基を用いて検討を行ったところ、クマリン系置換基の1つを用いることで、光照射前は優れた細胞接着・増殖性を保持する一方で、光照射後は完全に細胞接着・増殖性を失う性質が得られることがわかった。また光照射前後のシェラックに関して質量分析を行うことで、当初の想定どおりに光の照射後には置換基が脱離し、元の精製シェラックに化学構造が戻っていることも確認され、この脱離割合は光の照射時間が長いほど高まることもわかった。以上のことから、光の照射により細胞接着性を失うセラック樹脂の開発に成功した。

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図2 クマリン系置換基を導入したシェラックのスピンコート膜上でNIH3T3細胞を培養した場合の接着・増殖挙動。左のグラフは培養日数の増加による細胞数の増加挙動を示し、光照射後のシェラックでは全く細胞が増殖しないことが分かる。右の蛍光顕微鏡写真は光未照射のシェラック膜上で培養された細胞の様子と光を2時間照射後のシェラック膜上で培養した細胞を比較した結果となる。光照射後のサンプルでは細胞が接着増殖しないため、細胞の存在が確認されなかった。

(2)光照射による細胞あるいは細胞シートの回収

 クマリン系置換基を導入したシェラックのスピンコート膜に対して、NIH3T3細胞を播種して3日間培養後、光照射による細胞回収実験を行った。該当する光を0.5、1.0、2.0時間照射後、培養液の上清を集め、スピンコート膜から剥がれてきた細胞数を血球計算盤にてカウントした。その結果、光の照射時間の上昇に伴い回収できる細胞数に上昇が見られ、15mmφのスピンコート膜で培養した場合で、2.0時間の光照射により1.0X10^4 個の細胞回収が可能であった。

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図3 クマリン系置換基を導入したシェラックのスピンコート膜上でNIH3T3細胞を3日間培養した後の光照射による細胞回収挙動。(a)は光照射によりシェラック膜上から剥がれてきた細胞の様子。細胞外マトリックスを壊すことなく細胞が剥がれてきているため、複数の細胞がフィルム状に剥がれてきている。(b)は剥がれてきたNIH3T3細胞に対してLive-Deadアッセイを行った結果を示す。生きている細胞は緑色蛍光を示し、死んでいる細胞は赤色蛍光を示すが、剥がれてきた細胞はほぼ生きたまま回収できていることが分かる。

3.本研究にかかわる発表論文等

<学術論文投稿>

“Design of Cell Adhesive Shellac derivatives and endowment of photo-switchable cell-adhesion properties”

Yurino Sunakawa, Mai Kondo, Yasushi Yamamoto, Tomohiko Inomata, Yasumichi Inoue, Daisuke Mori, Toshihisa Mizuno*

ACS Applied Bio Materials, 6, 5493-5501 (2023).

4.補助事業に係る成果物

(1)補助事業により作成したもの

 本事業の研究目的となる、光照射により細胞接着性を失う光応答性シェラック樹脂が本事業の成果物となる。写真は、比較となる元々の精製シェラック(中央上)、光により細胞接着性は変化しないものの細胞接着性の付与されたシェラック(下段左)、光により細胞接着性を失うシェラック(下段右)を示す。

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​名古屋市昭和区御器所町 19号館308

高分子化学分野 水野研究室

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